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名古屋地方裁判所 昭和53年(ワ)3142号 判決

原告

東京重機名古屋株式会社

被告

山本光雄

主文

一  被告は原告に対し、金二九九万二三四二円及びこれに対する昭和五三年一二月二七日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを一〇分し、その七を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。

四  この判決は、原告勝訴部分に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は原告に対し、金四〇七万四七四二円及びこれに対する昭和五三年一二月二七日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生

(一) 日時 昭和五三年二月五日午前七時二〇分頃

(二) 場所 名古屋市中川区昭和橋四丁目一番地先国道一号線上交差点

(三) 加害車 被告運転の普通乗用自動車(三、五五ゆ六四号、以下、加害車という)

(四) 事故の態様 訴外森博之(以下、訴外森という)が普通乗用自動車(名古屋五八は九五一三号、以下、森車という)を運転して信号機のある右交差点に差しかかり、そこで信号待ちのため停車していたところ、前記加害車が森車に追突したもの。

(五) 訴外森の受けた傷害 頸部挫傷(頸部伸展有痛性、右頸部腫膿、圧痛あり)

2  帰貴事由

本件事故は被告の居眠り、前方不注意により発生したもので、被告の過失によるものである。

3  損害の発生

(一) 休車損害 金三七七万四七四二円

原告はクレーン車の賃貸を業とする会社であり、その業務内容は、クレーン車をその専属的な担当運転手付きで一体として、一時間または一定期間単位で対価を定めて需要者に提供するものであり、本件事故当時、原告は油圧式ハイドロクレーン一五トン車(TL―一五〇多田鉄工製、以下、本件クレーン車という)を所有し、これに原告の従業員でかつ本件クレーン車の専属的な運転手である訴外森を付けて昭和五二年一二月一五日から昭和五三年四月三〇日まで右車両を村本建設株式会社名古屋支店に賃貸し、訴外森は本件クレーン車を運転して右訴外会社の鍋田作業所で稼働しており、本件事故は訴外森の出勤途中において発生した。

しかして、本件クレーン車の一時間当りの平均売上額は金四五〇〇円であり、本件事故がなければ本件クレーン車は昭和五三年二月五日(日曜日)から同年四月三〇日までの七〇日間(二月五日を除いてこの間の日曜祝日を除外したもの)一日九時間(但し内一時間は作業現場が市外地のため加算されたもの)稼働して次の算式どおり計金二八三万五〇〇〇円の利益をあげることができまた同年五月一日から同年七月二〇日までの六七日間(日曜祝日を除外したもの)までの間は少なくとも一日八時間稼働して次の算式どおり計金二四一万二〇〇〇円の利益をあげることができたのに、訴外森の休業及び治療のため右期間中本件クレーン車を稼働させることができなかつたから、その間の原告の失つた休車損害は合計金五二四万七〇〇〇円となる。もつとも、本件クレーン車の一か月当りの消費燃料等は金四万円であり、また訴外森の給料は金二五万円であつたから、右一三七日間における消費燃料等は金一八万二七五八円であり、その間の給料は一三七万円となり、その間の必要経費として右合計金一五五万二七五八円を控除した金三六九万四二四二円が原告の被つた休車損害となる。

4,500円×70日×9時間=2,835,000円

4,500円×67日×8時間=2,412,000円

(二) 広告料 金八万〇五〇〇円

原告は訴外森の休業治療に相当の日数を要すると思われたので同訴外人に代わる技能を有する運転手を採用するため、昭和五三年二月一三日から同月一五日までと、同年四月三日から同月五日までの間の計六回にわたり新聞広告をして、クレーン車の運転手募集をなし、その費用としてそれぞれ三万八五〇〇円と四万二〇〇〇円の合計金八万〇五〇〇円を支出した。

(三) 弁護士費用 金三〇万円

原告は本件訴訟の遂行を原告訴訟代理人に委任し、その費用として金三〇万円を支払うことを約した。

4  よつて、原告は被告に対し、本件事故によつて原告の被つた損害金の一部として金四〇七万四七四二円及びこれに対する本件事故発生の後である昭和五三年一二月二七日から支払ずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実中、原告主張の森車と被告運転の加害車との間に交通事故が発生したことは認めるが、事故の態様は争う。

2  同2の事実は否認する。

3  同3の事実中、訴外森が原告の従業員であることは認めるが、その余は知らず、原告に損害が発生したとの点は否認する。

三  被告の主張

1  本件については、訴外森と被告との間に成立した示談によつて一切解決ずみである。

2  原告のように従業員やクレーン車を増やして利益をあげようとする場合には、その従業員が不慮の事故や病気等により就労できない場合を予想し、それを見込んで会社の経営を図るのが当然のことであるから、原告にその主張するような損害は発生する余地はない。

第三証拠〔略〕

理由

一  原告主張の日時、場所において、原告会社の従業員森運転の普通乗用自動車(森車)と被告運転の加害車との間に交通事故が発生したことについては当事者間に争いがない。

そして、成立に争いのない甲第一号証の三ないし七、第二ないし第四号証、第八、第九号証、証人森博之の証言、原告会社代表者尋問(第一・二回)の結果を総合すると、次の事実を認めることができ、これを覆すに足る証拠はない。

1  本件事故現場は、東西に走る幅員約三二・八メートル(中央に一メートル幅の中央分離帯があり、その両側に各一〇・五メートル幅の車道があり、さらにその外側に各五・四メートル幅の歩道がある)の道路と南北方向に走る道路との信号機の設置された交差点東側の西進車道上の停止線直前であり、付近はコンクリート舗装のされた、見とおしのよい、平たんな市街地道路であり、本件事故発生時は雨のため路上は湿潤であつた。

2  被告は友人三人を乗せて加害車を運転し、前記西進車線を時速約五〇キロメートルで走行し、本件交差点に差しかかつた際、たまたま早朝でもあつて交通量が閑散であつたため、前方を注視しないで後部座席に同乗中の女友達の方を振り向いて話しながら走行していた。これがため、被告は交差点東側の前記停止線に信号待ちのため停車中の森車に気付くのがおくれ、その後方約一五・五メートルの地点にきて始めて森車を発見し、危険を感じてハンドルを右に切るとともにブレーキを掛けたが間に合わず、自車の左前部を森車の右後部に衝突させて同車を約九メートル前進させ、よつて、これを運転中の訴外森に頸部挫傷(頸部伸展有痛性、右頸部腫脹、圧痛あり)の傷害を負わせ、これがために、同訴外人は昭和五三年二月六日から同月一七日まで名古屋市中区所在の名城病院に入院し、同月一八日から同年八月二〇日まで通院して治療を受けたが、同訴外人は原告会社にクレーン車の運転手として勤務しており、しかも、原告会社の営業形態が運転手付きのクレーン車の賃貸を業とするものであつたため、原告会社は訴外森が当時運転していた本件クレーン車を稼働させることができなかつた。

右認定の事実によると、被告に加害車を運転するにつき過失があつたことは明らかであり、しかも、原告会社は右事故のために損害を被つたものというべきであるから、被告は右損害を賠償すべき責任があるものといわなければならない。

二  そこで、原告の被つた損害につき検討する。

1  休車損害について

原告会社代表者尋問(第一回)の結果真正に成立したものと認める甲第五ないし第七号証、第一一ないし第一四号証、原告代表者尋問(第二回)の結果真正に成立したものと認める甲第一七号証の二ないし五、証人森博之の証言、原告代表者尋問(第一・二回)の結果を総合すると、次の事実を認めることができ、右認定を覆すに足る証拠はない。

(一)  原告会社は昭和五〇年一二月一一日クレーン車を運転手付きで建設業者等に一定の時間又は期間を単位として賃貸することを目的として設立された会社であり、設立当初はクレーン車二台と運転手二名で発足し、その後事業が拡大するにつれ、クレーン車、運転手ともにふやし、本件事故発生当時はクレーン車五台、運転手は訴外森を含め五名(但し内一名は運転免許停止中のため、同人の代りにたまたま他会社でストライキにより休業中の運転手一名を臨時に雇い入れたものである)を擁していたが、もともと原告会社は小規模の企業であるとともに営業形態が前記のとおり運転手付きでクレーン車を賃貸するというものであるため、その運転手が事故等で欠勤することになると、当該クレーン車を運転できる運転手を他から雇い入れるか、それができない場合には、必要に応じて運転手付きクレーン車を傭車として雇い入れ営業を継続せざるを得なかつた。

(二)  ところで、原告会社は訴外村本建設株式会社と契約して、原告会社の一五トンのクレーン車を運転手付きで右村本建設に賃貸し、昭和五二年一二月一五日から右クレーン車一台が、昭和五三年一月一二日からは同じく二台のクレーン車が同会社の鍋田作業所に出向いて稼働することになり、当時他の工事場でクレーン車を使つて作業していた訴外森は右二台の内の一台として同年二月一日以降同月四日まで本件クレーン車をもつて右作業所における作業に従事していたところ、翌五日訴外森が自家用の前記普通乗用自動車を運転して右鍋田作業所に赴く途中、本件事故に遭遇したため、右同日以降同年七月二〇日まで前記傷害のため本件クレーン車を使用しての作業に従事することができず、同訴外人は同日付をもつて原告会社を退職したが、同訴外人が受傷した後は、原告会社は賃貸人としての責任上、本件クレーン車の代わりに原告会社内でやりくりして他のクレーン車を出向かせるか、または他から運転手付きのクレーン車を傭車の形で雇い入れて右鍋田作業所の仕事にあたつてきた。もつとも、原告会社が傭車の形で雇い入れた場合には、高い料金を支払わざるをえないため、原告会社としては殆んど利益をあげるまでには至らなかつた。そして、訴外森が受傷して本件クレーン車が稼働できなくなつた同年二月五日以降二台のクレーン車が前記鍋田作業所で作業したのは同月二八日までの二一日であつた。

(三)  そこで、原告会社は訴外森が受けた傷害のため、しばらくの間本件クレーン車を稼働させえないことが予想されたので、その交代要員として昭和五三年二月一三日から同月一五日までと同年四月三日から同月五日までの間計六回にわたつて新聞広告をしてクレーン車運転手の募集をし、その間、訴外森の代わりの運転手として岩上なる運転手一人を雇い入れたが、同人は技術未熟のため従前森が運転していた本件クレーン車の運転に従事させることができず、結局のところ、訴外森が退職するまでの間、本件クレーン車に適当な運転手を採用することができず、その間本件クレーン車を稼働させることができなかつた。

(四)  しかして、原告会社が前記村本建設に対し、運転手付きで一五トンのクレーン車を賃貸する場合の契約内容は、一時間当りの賃料金三八〇〇円で、一日の作業時間を八時間とし、なお鍋田作業所が名古屋市外にあるためクレーン車の回送費分として、作業時間を一時間加算して計算する約となつていた。

右認定の事実によれば、本件事故がなければ、本件クレーン車は本件事故発生の日である昭和五三年二月五日から同月二八日までの二一日間は村本建設の鍋田作業所における作業に従事して一時間当り金三八〇〇円の割合による九時間の賃料として次の算式どおり合計金七一万八二〇〇円の収入を、また、同年三月一日以降訴外森が退職した同年七月二〇日までの間は少なくとも一一六日間、一時間当り金三八〇〇円の割合により一日八時間稼働して次の算式どおり合計金三五二万六四〇〇円の収入をあげることができたものと認めるのが相当である。

3,800円×9×21=718,200円

3,800円×8×116=3,526,400円

ところで、前掲原告会社代表者尋問の結果によると、本件クレーン車を稼働させた場合、一か月約四万円の燃料及びオイル代を要すること、訴外森の原告会社における給与は一か月平均二五万円であつたが、本件事故後は原告会社は同訴外人に右給与を支給しなかつたことが認められ、右事実によると、原告会社は本件クレーン車の休業及び訴外森の受傷により原告主張の金一五五万二七五八円の支出を免れたものと認められるから、前記の休車損害の内右金額を差引いた金二六九万一八四二円が原告の被つた休車損害ということになる。

2  広告料について

原告会社は訴外森が受けた傷害のため、本件クレーン車を稼働させえないことが予想せられたので、その交代のための運転手を採用するため昭和五三年二月一三日から一五日までと、同年四月三日から同月五日までの間六回にわたりクレーン車運転手の募集の新聞広告をしたことは前記認定のとおりであり、前掲甲第五、第六号証によると、原告会社はその費用として金八万〇五〇〇円を支出したことが認められ、前段説示するところに徴すれば、右広告は原告会社において必要やむをえずなしたものと認むべきであるので、それに要した費用は原告会社が本件事故によつて被つた損害と認めるのが相当である。

3  弁護士費用について

原告会社が本件訴訟の遂行を原告訴訟代理人に委任したことは本件記録上明らかであり、本件事案の内容、審理経過、認容額等に照らすと、原告会社が被告に対し本件事故による損害として賠償を求め得る弁護士費用の額は金二二万円とするのが相当である。

三  被告は、訴外森と被告との間に成立した示談により、一切が解決ずみであると主張する。しかして、前掲甲第八、第九号証によると、昭和五三年七月三一日本件事故によつて訴外森が被つた損害に関し被告との間に示談が成立したことが認められるけれども、右示談は原告会社の被つた損害に関するものではないので、被告の右主張は採用することができない。

被告はまた、会社としては、その従業員が不慮の事故や病気等により就労できない場合を予想し、それを見込んで会社の経営を図るべきであつて、原告会社には損害はなかつた旨主張する。しかして、会社としては、被告主張のような事故の発生を予想して健全なる経営の維持にあたることは当然のこととはいえ、そのことと会社が現に被つた損害を加害者に求めることとは別個のことであつて、被告の右主張も採用することはできない。

四  よつて、原告の請求は被告に対し金二九九万二三四二円及びこれに対する本件事故発生の後である昭和五三年一二月二七日から支払ずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるのでこれを認容し、その余は理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 白川芳澄)

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